関東地区研究会報告2018年5月

多文化関係学会 関東地区研究会報告

 

日時:5月26日 13:30-16:00
会場:成城大学 7号館711教室
講師:菊川 れん先生 (フリーランス手話講師)
角田 麻里先生 (関東学院大学)

テーマ:「ろう者からみた聴者の世界」
報告者:河野秀樹(目白大学)

5月26日、研究会は成城大学キャンパスにて、10余名の参加のもとに行われた。

会は手話講師の菊川れん氏が手話での講義とワークショップを行い、同氏の手話通訳を角田麻里氏が努めるかたちで行われた。菊川氏はフリーランスで企業,大学等で手話の講師をする傍ら、劇団や手話関連のテレビ番組で役者として出演するなど、多彩な活動を通じ、ろう者としての立場から、情報発信と教育に携わっている。本研究会では、ろう者の方々との実際の交流から、「かわいそうな人たち」というろう者に対するステレオタイプを脱し、自己を見つめ直す契機を得たという角田氏の同時手話通訳のもと、菊川氏からまず、「ろう者」という概念の多様さや日本におけるこれまでのろう者への教育のながれ、ろう者とのコミュニケーションで留意すべき点などについて、具体例をまじえたお話があった。その後、通訳なしで直接菊川氏に倣いながら手話の基礎を体験するワークショップが行われた。

まず、聴覚障がいを持つ人々を指すいくつかの概念のうち、「耳が不自由な人」、「しゃべれない人」といった呼び方は、特別不自由さを感じておらず、手話などでコミュニケーションをとれるろう者にとっては違和感がる表現であることが述べられ、一般には「ろう者」が適切な呼び方であることが説明された。

次に、ろう者の「聞こえ」の種類の多様さ、ろう学校での教育の実情について、菊川氏自身の経験を交えた話があった。ろう者にとっての聞こえ方は、伝音性難聴と感音性難聴の2種類に大別され、前者が音への感度の量的な低さを指し、補聴器での補正がききやすいのに対し、菊川氏の該当する後者は、音そのものが途切れるように聞こえる質的な難聴のため、機器による対処が難しいという。そうしたろう者にとって、かつてろう学校で行われ、菊川氏自身も経験した「口話教育」は、健聴者のコミュニケーションへの適応を強いる屈辱的なものであった。そこでは、手話の使用が禁じられ、口や顔の筋肉の動きから互いの発話を視覚を通じて解読させる訓練が行われ、違反者はペナルティを科されたという。現在では手話を取り入れた教育方法に取って代わっているが、日本は全般的にろう者への教育環境整備が立ち後れた現状にあるとのことであった。

さらに、ろう者とのコミュニケーションの手段は、手話以外にも複数の選択がありうること、手話は世界共通の語法を持つものでなく、日本語の手話の文法構造にも「日本手話」と「日本語対応手話」という二つの形式があることがクイズを交えながら説明された。「日本手話」は、ろう者が使用している自然言語であり、語順は日本語と異なり、手の動きだけではなく、顔の表情やうなずきなどに文法的役割がある。その一方「日本語対応手話」は、日本語の語順に手話の単語を当てはめたもので、手話の文法は壊れていて、日本語を視覚的に表したコミュニケーションモードの一つである。

前半のまとめとして、聴覚障がいには様々な様態があり、教育現場等では個々の聴覚障がい者のニーズに合わせた対応が必要となることが述べられた。

休憩を挟んで、後半では実際に挨拶などの簡単な手話を菊川氏が紹介し、通訳を介さずに参加者がそれらの表現をまねながら学ぶワークショップが行われた。参加者の中には手話を学んでいる学生も混じっていたが、初心者が多く、日本手話のかたちでの手話による表現のシンプルかつ効率的な表現に新鮮な驚きを感じていたようだ。

ワークショップの最後に、耳が聞こえないという仕草に対しその場から逃げられたり、英語で筆談されたりといった菊川氏自身の経験を引いて、日本人特有の、ろう者への対応に関する認識の不足と、手話使用時の反応の薄さへの言及があり、オリンピックを控え、こうした面での改善が求められる旨の提言がなされた。

会のまとめとして、現在では日本でもろう者への理解が進み、職業選択の幅も広がっていることが、2016年の法改正に伴って公共バスの運転手となったろう者の男性の事例とともに紹介された。一方、欧米ではさらに多くの職業選択が可能であり、今後いっそうのサポートが必要であること、ろう者への偏見は減ったものの、教育を通じたさらなる理解の進展が求められることが述べられた。

今回はEテレ(NHK)の番組「ろうを生きる難聴を生きる」の取材が入り、普段と異なる状況のなか行われた研究会となったが、菊川氏と角田氏の熱意あふれる語り、参加者の積極的な参加から、終始和やかな雰囲気で会が進行した。講師手配から会場準備まで格段のご尽力をいただいた関東地区代表の武田先生には改めて感謝の意を表したい。

 

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