2009年 活動内容

2009年8月2日(日) 中国・四国地区研究会報告

場所: 岡山大学・文化科学系総合研究棟・総合演習室2

テーマ: 「異文化適応における社会文化的適応と心理的適応」
話題提供者(1):奥西有理(おくにし・ゆり) 大阪大学工学研究科
発表素材:“Cultural Fit”: A new perspective on personality and sojourner adjustment. Colleen Ward and Weining C. Chang, International Journal of Intercultural Relations. 1997, 21, 525-533
話題提供者(2):畠中香織(はたなか・かおり) 岡山大学社会文化科学研究科
発表素材:“The influence of self construals and communication styles on sojourner’s psychological and sociocultural adjustment. Mika Oguri, William B. Gudykunst, International Journal of Intercultural Relations, 2002, 26, 577-593

Dr. Coleen Ward(Director – Center for Applied Cross-Cultural Research, Victoria University, New Zealand)らが提案した、社会文化的適応と心理的適応に関する論文やその派生論文を集中的に読み、自分の関心のあるフィールドにこの発想をどう適用できるか考えて意見交換を行う、参加型の勉強会企画として実施されました。異文化適応を文化受容と心理的安寧の側面に分けた発想は、様々な異文化滞在者研究にとって示唆的です。
話題1は、「在シンガポールのアメリカ人滞在者を対象に、パーソナリティ、特に異文化滞在者の外交的性格が、社会文化的適応と心理的適応の度合いとどう関連するかを検討したもの。滞在者が滞在先の文化に合うかどうかという、文化的適合性の概念を提出している。」という論文でした。発表者は、留学生と受け入れ側の間の異文化交流を研究している方です。
話題2は、「在米アジア人学生を対象に、滞在者の文化的自己観、コミュニケーションスタイルと社会文化的適応、心理的適応との関連を調査したもの。滞在者とホスト間の文化的自己観とコミュニケーションスタイルの類似は、適応への影響因子であるとの仮説の検証を試みている。」という文献でした。発表者は、看護師として海外勤務経験を持ち、日本に来るアジア人介護士・看護師の研究を行っている方です。
若手や学生を歓迎する方針で、地区会員以外の方にもおいで頂きました。日本社会の文脈下での社会文化的適応を再考し、今後の研究展開を考える手がかりを得る機会となりました。
文責: 田中共子(岡山大学社会文化科学研究科)


2009年7月26日(日) 中部関西地区研究会報告

場所: 高槻市立生涯学習センター

話題提供者(1): 西端 大輔氏(大阪大学 大学院)
テーマ: 「日本アニメはどのように日本文化を体現するのか」
本発表は日本のアニメが中国でなぜ好意的に受容されているのか、という視点から、次の2点について発表が行われた。
1)アニメ・マンガと政治は同レベルで語り得るのか?
2)日本製のアニメ・マンガはどのように日本を体現しているのか?
前者については、日本政府のアニメ・マンガに対する姿勢を例にあげ、政府がアニメ・マンガを通して日本の文化をどのように語り得るのかを考察する必要性が指摘された。後者については、アニメ・マンガが体現する文化として、「生活様式としての文化」と「知的藝術的活動の実践あるいはそれによって生み出される作品としての文化」が例にあげられた。発表後、フロアからは、ジェンダーの観点、産業としてのアニメなどについての質問がされ、活発な議論が交わされた。アニメ・マンガが世界に配信されて久しい今日、アニメ・マンガが「何を」伝えているのか、本発表は、文化レベルでの考察の必要性を積極的に説いていた。
文責: 出口 朋美(関西大学大学院)

話題提供者(2): 金光敏 氏(キムクァンミン、特定非営利活動法人コリアNGOセンター)
テーマ: 「外国人・民族的マイノリティの子どもの教育をめぐる今 ~国の政策の現状と課題~」
本発表では、「排外主義」から「受入れ主義」に転換しようとする今日の日本政府の外国人処遇施策について考察するとともに、外国人のこどもたちを取り巻く教育環境がいかに厳しいものであるかをNGOの視点で報告された。
日本社会における外国人のこどもたちの教育権が日本社会のセーフティネットから外れ、保障されていない。戦後の日本は外国人として多数を占めた朝鮮人を社会から排外、差別し、かれらのこどもたちの教育権に関しては、朝鮮人学校強制閉鎖、公立学校での厳しい差別などから、自主朝鮮学校を再建していくことを余儀なくされた。金氏自身が在日コリアン二世であることから、朝鮮人学校がたどった歴史が、公教育から弾き飛ばされ在日ブラジル人がブラジル学校をつくった経過と重なるとされ、外国人のこどもたちへの根本的な支援策が必要であると強調された。ブラジル人は日本だけでなく米国にも多く移民している。しかし、米国社会では、日本社会に見られるようなブラジル人学校は多く見られない。それは、社会に溶け込める環境があり、5年、10年経てば社会の一員になれる多文化要因があるからにほかならない。 本報告で、在日コリアンの教育環境を検証することが、ニューカマーの外国人のこどもたちの教育環境を整備するために避けられない作業であることが確認できた。
文責: 李洙任(りーすーいむ)(龍谷大学)


2009年7月25日(土) 関東地区研究会報告

場所: 立教大学

話題提供者(1): Voltaire Garces Cang氏(倫理研究所)
テーマ:「無形文化遺産の生成プロセス ―『伝統』の所有をめぐって―」
本研究は、無形文化遺産の中でも民俗文化財に分類される郡上市八幡町の「郡上おどり」を通して、文化遺産モデルを構築するという意欲的なねらいをもって完成された博士論文に基づくものである。研究内容の充実度もさることながら、発表者カン・ボルテール・ガルセス氏個人の茶道の経験に端を発した疑問から研究が生まれ、自らを研究の場に置き調査を進めた過程が臨場感溢れ描写された発表であった。日本語による発表は初めてとのことだったが、参加者を飽きさせない巧みな表現力は参加者一同大いに参考となった。遺産とは何かを正攻法から分類した上で先行研究をもとに遺産研究を3つのアプローチに分けたことは交通整理になり、基本知識を踏まえ、郡上おどりを保存団体・商工会・そのほかの組織コミュニケーションという側面から考察したのは効果的であり、かつ、後段に至り、氏の出発点であった家元制度を遺産モデルと絡め合わせたモデル構築は効果的に提示されている。
さて、本研究にうまくつながるか不確かであるが、この夏、琵琶湖に家族で滞在した折、西側に聳え立つ比叡山延暦寺(世界遺産)で涼をとることにした。東塔・西塔・横川の三塔に仏堂があり、東塔の根本中堂創建以来、1200年の長きに渡って灯され続けてきた不滅の法灯がある。織田信長により根本中堂そのものが焼き払われたため、法灯が一時絶えてしまったが、焼き払われる以前に山形の立石寺に分灯してあったものを、この地に再び復活できたらしい。不滅の法灯とははたして「有形」なのか「無形」なのか。「火」という極めて動的かつ静的なものの曖昧な境界に存する実体(本研究の「水」も同様)、そして灯し続けるという行為は、はたしてどのようにとらえられるべきなのかをめぐって、コミュニケーション的な側面からさらなる考察がおこなわれても面白いと思わせた小旅行となったが、そもそもの契機を与えてくれたのはガルセス氏の研究に相違ない。
文責: 小坂貴志(立教大学)

話題提供者(2): 石井敏氏 (獨協大学)
テーマ: 「高まる宗教間対話の研究・教育の必要性」
「高まる宗教間対話の研究・教育の必要性」と題して石井敏先生がお話しされると聞き、宗教間の対話や文明間の対話に強い関心を持つ者として、拝聴させていただいた。
石井先生は日本を含む現代世界が「享楽・浪費主義による精神的荒廃」に見舞われている現況と日本における宗教的状況(無関心)に触れた後、イスラームとの対話を呼び掛けるオバマ大統領をはじめ現代世界で起こっている対話の動きを紹介、宗教間の対話を促進する研究教育の必要性を力説された。なぜ宗教間の対話や文明間の対話の機運が高まっているのだろうか。それは、現在、諸宗教、諸文明の間の関係が無視、蔑視、断絶、衝突といった深刻な状態に陥っているからに他ならない。
ところで、宗教にせよ、文明にせよ、所詮は人間が自分のために作り、作り変えてきたものである。したがって変化させ、互いの無視、蔑視、断絶、衝突も避けることができるはずである。確かに、宗教や文明は歴史とともにますます強力になり人間を圧倒しているが、所詮、人間自身が人間自身のために作ったのだということを私たちは忘れてならない。
人間が作ったのだから、宗教にせよ、文明にせよ、外見がどれほど異なって見えようとも本質は同じはずである。実際、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、ゾロアスター教、ヒンドゥー教、道教(老荘思想)、仏教、儒教のどれにも通底するものがあると私は考えている。たとえばパウロは「キリストこそ私のうちに生きている」といったが、そのキリストとスーフィ(イスラーム)の「私は神(アナ・アル・ハク)」のハク(本質、真髄、神)、また、ヒンドゥー教のアートマン(個我)、仏教の「仏」(一切衆生悉有仏性、「生きとし生けるものすべてに仏性あり」の意)、道教(老荘思想)の道(タオ)は根源的に同一のものを意味していると私は思っている。
文責: 染谷臣道(静岡大学)


2009年7月18日(土) 北海道・東北地区研究会報告

場所: 藤女子大学北16条キャンパス

第1部 研究報告
テーマ:「オバマ大統領に見るネゴシエーション力」
話題提供者: 御手洗昭治氏 (札幌大学教授)

第2部 講演
テーマ:「ねえ、ワタナベ君」と’’Hey, Watanabe’’の間‐『ノルウェイの森』の英訳から見た「文化」の翻訳‐
話題提供者: 簗田憲之氏 (札幌大谷大学教授)

今回はじめての試みで午前開催としたが、研究会には研究者の他、学生、NGO関係者など約40名の参加があった。残念ながら、2件予定していた研究報告の1件が、報告者の都合で急遽中止となったものの、全体としては2時間半という時間が短く感じるほど、知的刺激にあふれた研究会となった。以下、内容を簡単に報告したい。(詳しい内容は、2010年冬に発行されるニュースレターに掲載いたします。)
研究報告はオバマ大統領の選挙戦を「交渉学」の視点から振り返るものであった。米国の大統領選挙では、候補者の選挙公約の国民へのアピール度の高さ、コミュニケーション媒体の活用能力、訴求能力が高くなくてはならず、こうした意味で選挙のプロセスはまさに国民との交渉であり、圧倒的なコミュニケーション能力を駆使して、国民の側に立った政策を強調し、またその実行能力を示唆したオバマ氏は、交渉の成功者であったとされた。
また、第2部では日本文化が英語文化という鏡にどのように映し出され、そこにいかなる「ずれ」と「ゆがみ」が生まれるのかということを、村上春樹の代表作『ノルウェイの森』で比較対照された。たとえば、講演タイトルである「ねえ、ワタナベ君」と’’Hey, Watanabe’’に限っても、「君」のニュアンスが翻訳できないことにより、文化理解をめぐるリスクが孕むと言う。文学作品の日‐英翻訳の比較対照は、異文化理解につながると同時に多文化社会を考える大きなヒントになるように思われた。
文責: 伊藤明美(藤女子大学)


2009年7月18日(土) 九州地区研究会報告

場所: 九州大学伊都キャンパス比文言文棟

第1部:「福岡県における移住女性支援と日本語教室開設支援について」 -子どもを連れて、地域で交流の場―
話題提供者: 松崎百合子氏(NPO法人女性エンパワーメントセンター福岡代表、「婚外子差別をなくし戸籍制度を考える会(ここの会)」世話人・石川多美子氏(九州中国帰国者支援・交流センター非常勤講師)
コメンテーター: 貞松明子氏(佐賀大学留学生センター非常勤講師)
本報告では、まず松崎氏より、女性エンパワーメントセンターの「女性の人権が尊重され、みんなが共に生きる地域と世界をめざす」という理念に基づいた活動として、女性と子供のためのシェルター、多言語ホットライン、アジアの女性に学ぶ外国語教室、日本語教室、フェアトレードなどの多岐にわたる活動が紹介された。なかでも、日本語教室開設支援について詳細な報告が行われ、日本語教室開設の背景として、福岡県内に外国人が散住しており、田舎では日本人男性に嫁いだ移住女性の割合が高いという現状が指摘され、移住女性の孤立化を防ぎ、移住女性間にネットワークをつくることが日本語教室の目的のひとつであると述べられた。また、都市部では既に外国人向け日本語教室は運営されているが、地方にはまだ教室がなく、開設にあたっては、①日本人講師の確保、②交通・広報の難しさ、③家族・地域の理解を得ること、などの地方特有の課題が挙げられた。
次に、石川氏から、日本語教室開設のためのボランティア講師募集から、教室開設、運営まで、また、日本語教室の現状に関する報告が行われた。日本語教室開設事業としては、2007年度に田川、柳川、2008年度に八女、朝倉、うきは、の合計5か所で行われた。日本語教室の役割としては、①生活するための日本語の力をつける、②生活情報の収集、③友達づくり、が挙げられ、ボランティア教師には、教えるのではなく共に学ぶ、学習者に寄り添う姿勢が求められるが、教室運営に関しては、お手伝いとしてではなく、自らが作り上げるという主体性が求められている。日本語教室の活動状況としては、各教室ごとに学習者の特性、ニーズに合わせた活動が行われている。今後の課題としては、各教室へのサポート強化、また、地域の日本語教育をボランティアまかせにするのではなく、国の施策として取り組んでいくよう、行政への訴えかけが必要であると述べられた。発表を通して、松崎氏、石川氏の移住女性に対するあたたかいまなざしと支援活動に対する熱い想いが伝わり、移住女性支援活動の意義が強く感じられる報告であった。
(文責:安高紀子 九州大学比較社会文化学府院生)

第2部:「日本語学科におけるテレビドラマ教材の使用に関する一考察―中国と韓国を比較して―」
話題提供者: 姚瑶氏(九州大学大学院博士後期過程)
コメンテーター: 谷之口博美氏(別府大学非常勤講師)
本報告は、前半の盛り上がりを調整する意味も兼ねてやや駆け足で発表された。内容は中国と韓国の日本語学科学習者及び教師を対象としたテレビドラマ教材の使用状況に関する調査報告で、ドラマ教材使用の有効性を実証するための基礎研究のひとつとして中韓両国の日本語学科におけるドラマ教材使用の実態とニーズを明らかにするためにアンケート調査を行ったものであった。結果は以下の4点が明らかになった。
①学習者側の調査結果から見ると中国も韓国もドラマ教材の使用を強く希望している。②教師側の調査結果から見ると中国はドラマ教材使用の必要性を感じているのに対して、韓国は必要性が少ないと考えている。③ドラマを視聴する際に中国の学習者は「日本語コミュニケーション」を重視するのに対して韓国は「ドラマのストーリー」を重視している。④ドラマ選択時の中韓の差は、中国の学習者は「社会問題」と「家族愛」に関するドラマに人気が集中するのに対して韓国の学習者は「純愛」を選んだ人が最も多かった、ということであるが、発表時のパワーポイントからは調査結果の違いが生じる原因や中韓のドラマ選択時の差が(示されたのかもしれないが、コメンテイターをつとめた筆者にとって)若干読み取りにくく、質問とかぶってしまった観もあった。後日要約を拝見した折、当日の討論としっかり絡めていなかったことがまだまだ力量不足かと反省されたが、今回から始まったこのコメンテイターという制度は発表者と聴衆者という二項対立ではなく、さらに別の視点を提示することでより両者をつなげていける可能性を含んでいるように思え、今後の研究会としての発展が楽しみに思われた。姚瑶氏の今回の調査も、将来どのように学習者のニーズに合わせ教室活動が行なわれていくべきか、コミュニケーション能力を高めるためにはどう使用すべきかなどの課題が示唆され、これからが期待される基礎研究に思われた。
(文責:谷之口博美 別府大学非常勤講師)


2009年3月15日(日) 関東地区研究会報告

場所: 地下1階第一第二会議室

話題提供者(1)(第一部 研究会): 手塚千鶴子(慶應義塾大学日本語・日本文化教育センター教授)
テーマ: 「短期留学生の日本留学の光と影:日本らしい異文化交流をもとめて」

本報告では、グローバリゼーションの中で、日本のポップカルチャーに憧れを持ったり、マルチカルチュラルな人が増えるなど、訪日短期留学生に変化が生じていること、留学の動機や目的なども多様化していることが、まず指摘された。異文化交流を考えるとき、交流する主体を把握することは一義的に大切なことである。
次に、短期留学生が日本で感じるカルチャーショックや、異文化コミュニケーションギャップを乗り越えるために、授業やカウンセリングを通して支援する手塚氏の具体的手法が紹介されたが、いずれも大変興味深いものだった。最も興味深かったのは、異文化間における「怒り」の表現の違いを授業で討論するために、受講する留学生と日本人学生が描いた怒りをイメージする絵の違いである。留学生は噴火する火山を描くなど、怒りそのものをストレートに表現するが、日本人の学生は、怒りを表現するのみならず涙を描くなど、日本人の怒りには悲しみが伴うという。この指摘は大変面白く、それはなぜなのかということが大変気になった。
短期留学生は、日本での留学期間が正に短期であるが故に、第三者による異文化適応のための支援の重要性が痛感されるのだが、気づきや自己内省など、留学生の人間的成長を促しながら異文化理解や異文化コミュニケーションギャップを乗り越えさせようとするところに、手塚氏のカウンセラーとしての暖かいまなざしが感じられた。
かつて文化を盛んに取り入れる側であった日本が、今やポップカルチャーを中心に文化を発信する側となり、短期留学生にも憧れをもたれる時代になっているからこそできる国際交流があるはずであり、また、日本人と留学生が同じ教室で共に学ぶ異文化間教育などを通して、短期留学生支援の可能性を充分見出すことができるという手塚氏の思いは、現場での確かな手応えによるものなのだと実感できる報告だった。

文責: 花澤聖子(神田外語大学外国語学部中国語学科)

話題提供者(2)(第二部:ホラロジーの会): 坂井二郎(立教大学ランゲージセンター教育講師)
テーマ: 持続維持可能な社会における「お蔭様」のコミュニケーションの意義と役割

「お元気ですか。」「お蔭様で元気です。」「試験はどうでしたか。」「お蔭様で合格しました。」
上記のような挨拶言葉は日本人の口からよく聞く。ずっと根拠のない話だと思っていた。自分の「元気」はなぜ会ってもいない他人の「お陰」なのだろう。自分の努力で試験に受かったのにどうしてそれと関係のない人の「お陰」なのだろう。このように思いつつ、いままで「お陰様」という言葉の使用に抵抗してきた。坂井先生の「お陰様」コミュニケーション説を聞き、「お陰様」の深いところに含まれていた世界観が見え、暖かい気持ちを持つようになった。「お陰様」という言葉を使いたくなってきた。
私の気持ちを変えたのは坂井先生の「御蔭様」に対する解釈である。「御蔭」というのはわれわれが普段意識していない異質な存在、あるいは他者である。これは自然環境であり、近い、あるいは遠いところで同じ地球に生きている人間である。われわれの存在はこれらの存在により成り立っている。われわれの生存状態はこれらのものの存在による影響を受けている。そして普段「気付かない形で」これらの要素による恩恵を受けている。だが、人間中心主義、自己・自文化中心的見地でこの「御蔭様」のことが見えなくなっている。その結果は自然生態環境の破壊、他人の意識および多民族の文化の無視を行っている。一方通行のコミュニケーションによる「御蔭様」の精神が無自覚になっている。
というのは「御蔭様」は人間と自然、人間と人間世界の関連性を重視し、そして異質なものと他者の存在を自分の存在に意味するという精神を提唱する概念と理解してもよいであろう。冒頭の話に戻ると、他者は自分が元気でいることに何らかの理由で繋がっていると考えてよい。自分の試験の合格は見えないところで他者と関連していると考えていく。プラスなことだけではなく、マイナスなことも考えられる。ただ、「御蔭様」の発想で考えれば、プラスもマイナスもなくなるであろう。坂井先生の御蔭で「御蔭様」が大好きになってきた。「御蔭様」精神を普及すると世界は平和になるであろう。

文責: 張暁瑞(明星大学国際コミュニケーション学科)


2009年3月12日(木) 九州地区研究会報告

場所: 九州大学 六本松地区キャンパス

題目:「異文化」をテーマにした授業の試み―世界のアニメ作品(Animated Tale of the world)を使った実践から得られた授業指針―
話題提供者:谷之口博美氏(別府大学非常勤講師)

本発表では、別府大学で行われた授業の実践報告をもとに、「異文化」をテーマにした授業のあり方について議論がなされた。日本で勉強する留学生の中には、日本人学生との交流がほとんどなく、異文化交流の機会が持てない学生も存在する。そのような背景のある中、留学生に対する日本語の授業に異文化コミュニケーション教育を取り入れることが試みられ、その効果が報告されるとともに、「異文化」をテーマにした授業の指針が示された。
授業では、宮沢賢治作『雪渡り』のアニメが教材として用いられた。アニメ鑑賞後、物語のメッセージについて作文させ、それぞれの意見を発表し、話し合いを持った後、友情論について作文させるという手順で行われた。その結果、時間をかけ導入が行われたEクラス(19名)と、導入はなされずアニメを見ただけのGクラス(14名)の作文には、内容に明らかな差異が見られ、Eクラスの方が教師のねらいに沿った内容の作文を書いていることがわかった。また、話し合いの際、アニメを自分に共通する異文化の問題として捉え直している学生がいる一方で、頭の中だけで理論的に捉えている学生の存在も確認された。また、母国で受けてきた教育の違いのためか、討論することに慣れている学生と不慣れな学生の存在が明らかになった。以上のことから、留学生に対する「異文化」をテーマにした授業で重要なこととして、①権威的雰囲気を取り除く工夫(教師は学生の意見を独断的に評価しない)、②教材選択・テーマ選択の工夫(経験をもとに討論に参加できる工夫)、③「参加感」を高める(ファシリテーターとしての能力を磨く)、という3つの指針が示された。そして、今後の課題として、物語を自分のことに反映して捉えることができる「メタ解釈能力」を促し物語を自らの現実に置き換えられるような導入とはどのようなものか、「メタ解釈能力」と言語能力とはどのような関係にあるのか、「メタ解釈能力」は測定可能か、という3点が挙げられ、発表が締めくくられた。
谷之口氏の発表の後、十分な質疑応答・討論の時間が設けられ、実践授業が行われたクラスの詳細や授業内容の詳細が質問されたり、文化の捉え方についての討論が行われたりした。
今回の研究会は、間際になって開催が決定されたため、外部からの参加者はなく、九州大学関係者のみの参加であったが、多文化関係学会の会員以外で専門分野も異なる参加者もあり、多角的な視点から様々な意見が交わされた。

文責:古谷真希(九州大学)




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